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東京地方裁判所 昭和24年(行)111号 判決

原告 堀田実寛

被告 東京都板橋区長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告の原告に対する昭和二十四年度東京都税特別所得税の賦課を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として、

一、被告は、原告に対し昭和二十四年八月十六日附徴税令書により、昭和二十四年度東京都税特別所得税第二種(弁護士業)第一期分税金三千二百円、納付期限同年八月三十一日とする課税をした。

二、しかしながら、右賦課は、つぎの理由によつて不当である。まず、弁護士業に対する都税特別所得税は、昭和二十三年法律第百十号地方税法(以下単に旧地方税法という。)第七十一条によつて創設された新税種目であるところ、原告は、昭和二十二年以前から右地方税の施行された年である昭和二十三年の十一月三十日まで肩書住所地で弁護士業を営み、同年度分として被告が原告に課した特別所得税第一期分第二期分合計三千二百四十円は、昭和二十三年中すでにこれを完納したものである。

しかるに、被告は、前示昭和二十四年度課税を敢てし、これが理由として、同課税は、原告が昭和二十四年度に弁護士業をしたものとして課税するものでなく、昭和二十三年一月一日から右廃業の昭和二十三年十一月三十日までの所得に対する課税であるとする。しかるときは、原告の前記納税済の分は、昭和二十二年中の所得に対する課税となるわけであるが、前示の通り昭和二十二年度まではこの税種目がないから、昭和二十二年中の所得に対し特別所得税のあるわけがなく、原告は、すでに、廃業にいたるまでの特別所得税を完納したこととなる。

およそ、事業税は、継続的所得に賦課されるものであるが、徴収年度においてその年中の所得を算定し徴収することが事実上不能であるため、止むなく前年度の所得を技術的に課税標準とするもので、前年度の税金を一年遅れに徴税するものではない。前年の所得を徴収年度の所得に擬してこれを標準として課税することに規定したのが旧地方税法第六十五条である。

なお、原告の被告に対する右廃業届が昭和二十四年八月下旬提出されたことは事実であるが、みぎ届出の時期のいかんは課税の当否に関係がなく、いずれにせよ本件課税は、違法である。

三、したがつて、原告は、本件納税通知に接するや、昭和二十四年八月二十九日に東京都知事に対し異議の申立をしたところ同知事は同年十一月十六日に原決定を維持して、右異議を棄却し、同月二十四日原告にその決定書を交付した。次いで、同年度第二期相当分として右同様昭和二十四年十二月十三日附徴税令書により税額三千二百円納付期同月二十七日とする賦課をなし来つたので、これら昭和二十四年度の違法なる右課税決定の取消を求めるため、本訴請求に及んだ。

と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、請求原因に対する答弁として、一、原告主張通りの昭和二十四年度特別所得税を賦課したこと、原告が昭和二十三年度に賦課された特別所得税を完納したこと、右課税が原告主張のように弁護士の業務を行う者に課せる新税種目であること。原告がその肩書住所地で昭和二十二年以前から弁護士業を行つていたところ、昭和二十三年十一月三十日にこれを廃したこと、原告が昭和二十四年八月下旬その旨の届出をしたこと、並びに原告主張通り異議の申立があり、棄却の決定のあつたことは、これを認める。その余の原告の主張を争う。

原告が完納したと主張する昭和二十三年度に賦課された税金は旧地方税法第七十二条第二項によつて準用する同法第六十五条第二項に規定する「前項の所得を課税標準とするもの」(所得査定金額二万七千円に対し、旧地方税法第七十二条第一項及び第百二十七条第一項の規定によるその百分の一の賦課率をもつて算定した税額、並びに、都市計画税を合算した金三千二百四十円)に該当し、被告が原告に対し昭和二十四年八月十六日附徴税令書によつて賦課したものは、同条項に規定する「前年度一月一日から事業廃止の時までの所得を課税標準とするもの」の一部分即ち第一期分(昭和二十三年一月一日から同年十一月三十日までの所得査定額五万五千円に対する前同様の算定による税額六千六百円の半期分)に該当し、本来は、この両者の全部を合せて昭和二十三年度分として徴税すべきものである本件においては、たまたま、原告の廃業届出が遅れて昭和二十四年八月二十二日になされ、前示昭和二十三年度分の課税当時において、この廃業の事実が被告に不明であつたため分割課税されるに至つたわけで、本件課税は適法である。(立証省略)

三、理  由

被告が原告に対し昭和二十四年八月十六日附徴税令書により昭和二十四年度東京都税特別所得税第二種第一期分税金三千三百円納付期限同年八月三十一日とする課税をしたこと、これよりさき被告が原告に対し昭和二十三年度東京都税特別所得税第二種第一期分第二期分合計三千二百四十円を賦課し、原告が昭和二十三年中にこれを完納したこと、並びに、原告が昭和二十二年以前から昭和二十三年十一月三十日まで弁護士業を行い、同日みぎ業務を廃したことは、当事者間に争がない。

右東京都税特別所得税が昭和二十三年法律第百十号地方税法(以下単に、旧地方税法という)によつて賦課されたことは、被告の陳弁をまたず明かであり、右税種目が右法律により新設されたものであるところ、原告は、前示昭和二十三年度分課税の納付により、右廃業に至るまでの特別所得税はこれを完納したものである、と主張する。

よつて先ず、みぎ特別所得税の性質について考えるに、旧地方税法第七十一条の規定によれば、同税は、みぎ同条の規定する特定の業務活動をもつてその課税客体とし、且つ、同法第七十二条第二項の規定の準用する第六十五条第一、二項の規定によれば、みぎ業務活動による一定期間の所得を同課税の標準と定めたものと解するを相当とする。さて原告は、同税は、当然に当該年度の所得に賦課されるべきもので、前年中の所得に賦課されることはあり得ないと主張するが、同税が当該年度中の事業活動による所得に対し課されるものであるか、前年度中のそれかは専ら立法の決するところで、現実には、当該年度中の事業活動による所得の一部がその納税にあてられるとするも、これを目して当該年度中の所得に課税されるものとなし得ないことは明かである。又、同時に、前年の所得に対する課税はあり得ないとする法理もない。

しかるところ、前示第七十二条第二項の規定により準用される第六十五条第一項の規定は、課税標準に関する規定として現に特定の業務活動を行う者に対し特別所得税を賦課するについて、納税義務者の所得中当該年度の前年即ち前年の一月一日から十二月末日までの業務による所得が課税の標準となることを明かにしている。この点は、所得税法が専ら当該年度の一年中において収入すべき所得金額、即ち、その年中の所得を課税標準となすのと趣を異にしている。即ち、同条の規定は、所得算定の基準のみを明かにするための技術的規定で、前年の所得を徴収年度の所得に擬するものと解すべきではなく、同規定は同時に地方税法による特別所得税が所定の業務について賦課される場合に、当該年度の前年の一月一日から十二月末日までの業務活動による所得に対し課されるものであることを規定するものと解することが妥当である。したがつて、前示第六十五条第二項の規定は、納税義務者が業務を廃した場合の特別所得税の課税標準を規定すると同時に、その場合の課税さるべき所得をも明かにするものと解釈すべきである。されば、原告は、昭和二十二年中の所得のみを課税標準とした前示昭和二十三年度分賦課(第六十五条第一項の規定によるもの)の納税により、その廃業に至るまでの特別所得税(同条第二項の規定によるもの)を納付したものということはできない。よつて、その後の分である、前年度一月一日即ち昭和二十三年一月一日から廃業の時までの所得に対し、さらに被告は、前記昭和二十四年八月十六日附徴税令書により、昭和二十四年度東京都税特別所得税第二種第一期分税金三千三百円納付期限同年八月三十一日とする課税をなし、次いで、その成立につき争ない甲第七号証の二により、右第二期相当分の課税をなすに至つたことをも推認することができる。そうして、前示第六十五条第二項の規定によれば、前年中の所得に対しすでに課税決定のあつたときは、その課税の外前年度一月一日、即ち、本件においては昭和二十三年一月一日からその廃業の時に至るまでの所得を標準として、さらに、廃業後直ちに課税すべきであつたこととなるが、被告において、原告の廃業を昭和二十四年八月に至つて了知したため、本件課税を昭和二十四年度課税として扱つたとするも、本件課税が原告に対する昭和二十四年一月一日から右廃業了知の日までの所得についての課税でないことは明かであり、本来原告の廃業後直ちに賦課されるべきであつた昭和二十三年度中の所得についての課税であることは前示のとおりであるから、その時効等による課税権の消滅のない限り、みぎ課税は有効と言わなければならない。

以上の次第であるから、原告が右課税決定を違法とする理由はこれを認めがたく、これが取消を求める本訴請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 中西彦二郎 西岡悌次 山本進一)

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